抹茶は高齢者の認知機能と睡眠を改善する

PLOS ONE誌に掲載された最近のランダム化比較臨床試験では、毎日抹茶を摂取すると、認知機能低下の初期段階にある高齢者の社会的認知と睡眠の質が改善される可能性があることが判明しました。

認知症は、世界中で加齢に伴う最も深刻な神経変性疾患の一つです。世界保健機関（WHO）の2022年報告書によると、認知症患者数は2019年の5,700万人から2050年には1億5,200万人に増加すると予想されています。高齢者にとって睡眠障害も大きな問題の一つであり、睡眠時間が7時間から6時間に減少すると、50～60歳の成人における認知症リスクが30%増加することが報告されています。

高齢者の認知機能維持には、食生活を含むライフスタイルが重要な役割を果たします。前臨床研究では、適切な栄養摂取が認知症に伴う認知機能の低下を予防する上で重要であることが示されています。抹茶には、エピガロカテキンガレート（EGCG）、テアニン、カフェインなどの生理活性化合物が含まれており、認知機能と気分に良い影響を与えることが知られています。

この研究は、日本在住の60歳から85歳までの高齢者99名を対象に実施されました。そのうち64名が主観的認知機能低下、35名が軽度認知障害でした。参加者は、介入群と対照群の2つのグループに無作為に分けられました。介入群の参加者は12ヶ月間、毎日2グラムの抹茶を摂取し、対照群の参加者は外観、色、香りが同一のプラセボカプセルを摂取しました。

参加者の認知機能と睡眠の質は、ベースライン時と 3 か月後、6 か月後、9 か月後、12 か月後に評価されました。

研究では、抹茶カプセルとプラセボの服薬遵守率は試験期間を通じて98～99%であることが分かりました。抹茶群ではプラセボ群と比較して血中テアニン濃度が有意に高かったことからも、参加者の介入に対する高い服薬遵守が示唆されました。

認知機能における表情認識の評価では、抹茶の摂取は、表情認識や言葉の意味の説明など、社会認知能力の有意な改善と関連していることが示されました。しかし、モントリオール認知評価尺度（MoCA-J）やアルツハイマー病評価尺度（ADCS-MCI-ADL）といった主要な認知機能評価尺度では有意な改善は見られませんでした。また、12ヶ月間抹茶を摂取した被験者では、睡眠の質に改善傾向が見られました。

表情認識テストでは、抹茶を摂取した参加者はプラセボ群と比較して反応時間の短縮と誤った反応数の減少が見られました。

本研究の結果は、抹茶を定期的に摂取することで、主観的認知機能低下または軽度認知障害のある高齢者の感情処理能力と睡眠の質が向上する可能性を示唆しています。しかし、主要な認知機能指標に有意な変化が見られなかったことから、抹茶の効用は、より広範な認知機能ではなく、社会的洞察力など、認知の特定の側面に限定される可能性があることが示唆されます。

抹茶の睡眠改善効果は、テアニン含有量によって説明できる可能性があります。テアニンの補給は、健康な成人および統合失調症患者の両方において、睡眠の質の改善と関連することが既に示されています。睡眠障害は軽度認知障害の発症リスクを著しく高めることから、抹茶摂取による睡眠の質の改善が、介入群で観察された社会認知能力の改善に寄与している可能性があります。

しかしながら、本研究の結果は、サンプル数が比較的少ないなど、認知機能低下のある高齢者のより広範な集団を完全に代表していない可能性があるなど、いくつかの限界があるため、慎重に解釈する必要があります。さらに、睡眠の質を評価するために自己申告を用いると、睡眠構造のあらゆる側面を捉えきれない可能性があり、今後の研究では、睡眠ポリグラフ検査などのより客観的な方法を用いることが推奨されます。

抹茶を毎日の食事に取り入れることは、認知機能や睡眠の質を改善し、認知症を予防するためのシンプルで効果的な戦略となるかもしれません。

抹茶が認知機能低下に及ぼす長期的な影響を完全に調査するには、より大きなサンプルの使用、より感度の高い神経心理学的検査、および抹茶が認知機能と睡眠に作用するメカニズムをより深く理解するためのバイオマーカー分析を含むさらなる研究が必要です。